diary

とある日のごはん日記

臼田 梨紗 / 管理栄養士

臼田さん&寮母さんがつくる、日本郵政グループ女子陸上部の寮の食事をご紹介。

朝食
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朝食は朝練が終わって8:00頃から。練習の後はご飯とみそ汁の和朝食が定番。フルーツでしっかりとビタミン補給、ヨーグルトなど乳製品でカルシウムもしっかりととっています。

夕食
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夕飯も基本的には定食スタイル。アスリート=肉!?と思いきや、女子陸上部の皆さんは魚が好きな方が多いそう。おかずは多めに作って、カウンターに置いてあるので、選手個人が自分の練習量や体調に合わせて量を足しているそう。

 
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毎日の「普通のごはん」が、走り続ける力になる

日本郵政グループ女子陸上部 栄養サポートスタッフ
臼田 梨紗さん (管理栄養士)

2014年の創部からわずか3年で、2016年の全日本実業団対抗駅伝競走大会で初優勝を果たした日本郵政グループ女子陸上部。同年のリオ五輪にも出場した鈴木亜由子選手・関根花観選手、そして2017年ロンドン世界選手権に出場した鍋島莉奈選手ら3名の日本代表選手を中心とする実業団チームだ。選手たちは現在、東京都内にある陸上部の寮で生活をしており、スタッフ陣も常駐して選手のサポートをしている。創部当初からのスタッフである管理栄養士の臼田さんに、どのようなサポートを行っているのかお話を伺った。

実業団チームを支える毎日の寮食

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陸上部員の1日は、早朝6時の朝練から始まる。普段の練習は、寮を拠点に数か所の練習場で行っている。朝練後は寮に戻り、全員で朝食を食べる。その後、午前中は郵便局等での勤務、昼食は各自で食べ午後はまたチームで練習、そして寮で夕食というスケジュールだ。このように日曜日以外は毎日、朝・晩の食事を食堂で、チームみんなで食べている。

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寮の食事は基本的に定食スタイル。ごはん、味噌汁、それに主菜・副菜などの様々なおかずが並ぶ。臼田さんは毎週コーチから練習メニューを聞き、練習時間や走る距離・トレーニングの内容など練習強度を踏まえて栄養価を考えながら献立を立て、住み込みの寮母さんと協力して全員分の食事をつくり、食事の時間になると配膳をしている。

また、選手が練習やトレーニングの内容やその日の体調、体組成などを記録している練習ノートを確認し、体重・体脂肪などの情報をまとめ、選手1人1人へ栄養管理の視点からのアドバイスを毎月行う。その内容は体重管理に関することが多いという。陸上長距離選手は体重が競技記録に影響が出やすく、特に女子は体重管理が難しい選手も多く、食事面のサポートは欠かせない。食事の配膳の際、減量が必要な選手にはご飯の量を調整したりと、個人の目標や状況に応じて対応している。

「練習がハードな時には、選手本人が『今日ちょっと夜はしんどいかもしれません』と自己申告してくれるので、そんな時は疲れていても食べやすいようにおかゆを用意したりします」と、日頃から選手と密にコミュニケーションできるからこそサポートもしやすいそうだ。

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臼田さんはスタッフ陣の中では一番選手と年齢が近く、選手たちも声をかけやすいお姉さん的な存在。何か相談のある選手は、食事のあと食堂に残り、後片付けをする臼田さんに話しかけたりすることもあるという。同じ部の仲間であり、同時にライバルでもある選手たちの共同生活は緊張する時間も多い。そんな日常の中で、食事の時間が少しでも楽しくリラックスできる場になるよう心掛けているそうだ。

目的はダイエットではなく、記録を出すこと

陸上長距離選手の中には体重を気にして食事量を減らした結果、血液中のヘモグロビン量が減少して鉄欠乏になったり、ホルモンバランスの乱れから疲労骨折を招いたりする女子選手が多い。日本郵政グループ女子陸上部では、そういった選手の不調を未然に防ぐため、毎月血液検査を行って貧血を早期発見できるようにしている。食事面のサポートはもちろん、場合によっては鉄やビタミンなどサプリメントの併用なども含めアドバイスし、選手のコンディション管理は綿密に行われているが、それでも、やはり減量に悩む選手は多い。

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「(減量の指示が出ている選手に対しては)あなたの目的はダイエットではなくて、走って良いタイムを出すこと。減量はそのための手段の一つなんだよ、という話をします。減量のプレッシャーで選手が体調を崩したりすることがないように気を付けています」。

女子選手に体重の話をするのはセンシティブな話題でもあり、減量、減量と厳しく言えないため、スタッフ陣も選手とのやりとりには慎重になる。

「でも、誰かの誕生日にはみんなでお祝いのパウンドケーキを一切れずつ食べたりしますよ。一番人気のメニューはフレンチトーストなんです」と、臼田さん。

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寮食で甘いものを出すのにも実は理由がある。選手たちにとって息抜きになるデザート類をあまりにも制限してしまうと、ストレスがたまり暴食につながってしまうかもしれないからだ。また、例えばフレンチトーストであれば、他にヨーグルトや果物・野菜など合わせて出す。どのような組み合わせで食べれば栄養バランスの良い献立になるか、そのお手本を示している。

臼田さんは中・高校生のころに新体操をやっており、過度の減量によって生理不順や怪我に悩まされたという。減量自体もとてもストレスだった。高校生のころ疲労骨折をした際は、減量の影響など考えもせず食事も残しがちだったそうだが、今思い返せば、あの時きちんと食事をして身体づくりをしていたら、もっと競技で活躍できたいたかもしれない、と自身の経験を振り返る。

「陸上のトラック競技は、道具も何も使わない、身体が資本の競技。練習をたくさんすればその分結果は出ますが、その練習で作られる筋肉は自分が食べたものでできている。故障しても、それを治すのは自分の身体。強くなるために、しっかりとした土台をつくることを意識して食事をしてほしいです」。

走り続けられる選手になるために、「しっかりと食べて」

実業団の寮には、各地から様々な生活をしてきた選手が集まってくる。臼田さんが選手たちと食事を通じてやり取りをする中で感じたのは、子供の頃からの食環境の影響が非常に大きい、ということ。

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「好き嫌いが多い子もいるし、味付けの好みも様々。子供のころは家庭の味が、その子のごはんの世界のすべて。だから、保護者の方々には、お子さんにいろんなものを食べさせてほしいなと思います。実業団に入ってきてから食事のトレーニングをするのではなく、小さいころからしっかり食べられるようになっていてくれれば、もっと早くから活躍ができると思うんです」。

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現在サポートする選手たちの中でも、やはり走れる選手・走り続けられる選手は、しっかり食事をすることができていると感じるそうだ。例えばキャプテンの鈴木選手はおばあちゃんもいる家庭で育ち、和食中心の食卓で「しっかり食べて」育ってきたため、現在でも自分で食事の管理がよくできている。関根選手は、どんなにハードな練習で疲れていても食事はきちんと食べて、しっかり食事で栄養補給ができている。それが関根選手のアスリートとして強いところだそうだ。

そんな選手たちを見てきた経験からも、中高生の選手や保護者の方に、食事や身体づくりの大切さをもっと伝えたいと話す。

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たいそうな食事である必要はなくて、ごはん・味噌汁・肉や魚などのおかず、野菜がそろった普通のごはんを、毎日しっかり3食、食べられるようになってほしいんです。
最近は、特に女子の中高生アスリートで練習や成長にあった食事がとれておらず体型もガリガリな子がいます。例えその時は記録を出せていても、長い目で見たときに成長期にしっかりと身体をつくり、正しい食習慣が身についていないと、大学や実業団・プロ選手として競技を続けたときに伸び悩んでしまう子が多い、それはアスリートとしてすごくもったいないと思うんです」。

栄養サポートの立場としてできるのは、選手の栄養管理まで。そこから実際に練習をして記録を上げ、結果を出すのはアスリート本人だ。臼田さん自身は直接勝ち負けに関われないが、自分がサポートしている選手が記録を出せた時の喜びや感動は、選手たちと同じように感じているそうだ。選手・チームがもっと強くなり勝つために、臼田さんは毎日厨房からエールを送っている。

PROFILE
臼田 梨紗

臼田 梨紗(Risa Usuda)/ 管理栄養士

東京農業大学卒業後、ドラッグストア、日本スポーツ振興センターでの勤務を経て、現在は日本郵政グループ女子陸上部 専属の栄養サポートスタッフとして創部当初から従事。東京農大在学中は陸上部のマネージャーを務め、箱根駅伝に出場する選手たちを支えた経験がある。
日本陸上競技連盟内の栄養士会では食育プロジェクトのメンバー。また、陸上競技マガジン(ベースボール・マガジン社)で栄養コラムの執筆なども行う。