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ラグビーも食事も、「楽しむ」が今のテーマ

7人制ラグビー女子日本代表 サクラセブンズ
横尾 千里選手 (ラグビー選手)

ラグビー選手といえば、大きく強靭な身体でいつも山盛りのご飯を食べる、そんなイメージがあるかもしれない。もちろんそんな選手も多くいるだろう。今回、インタビューをしたのは7人制ラグビーの女子日本代表・サクラセブンズの横尾千里選手。身長164cm、体重59kg。ラグビー選手としては決して大きな体格ではない。それでも、粘り強く地道にボールを前に運び、自分よりも体格の大きい相手にも臆せずタックルをするプレーでチームを支えている。そんな横尾選手に、競技のことや、ラグビー選手としての身体づくりについて、どのような取り組みをしているかお話を伺った。

仲間のためにタックルで挑む

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2016年のリオ五輪から正式種目となった7人制ラグビー。試合時間は、前後半各7分、15人制と同じ大きさのフィールドを7人で攻めて、守る。スピーディーな試合展開が多く、一本のラン、そしてパスが勝負を決めるプレーに直結することもある。必然的に攻守ともに、選手一人一人のフィールド内での役割や責任は大きくなり、戦術や戦略を頭に入れ、緊張状態を保ちながら走り続ける。

そんな7人制ラグビーに求められるのは、持久力・瞬発力だ。

「味方の選手がゲインを切ってくれた時に、顔を出せるように走り続けているし、
『今、ここ空いたな』という瞬間、トップスピードで上がります」と、横尾選手。

ゲインを切る、とはボールを前に進めること。自分がボールを手にしていなくても、味方の選手がボールを持って前に進んだとき、いいタイミングでパスがもらえるように、もらえなくてもおとりになるように試合展開を予想しながら常に走り続ける。そして、スペースを見つけた瞬間、すぐに反応しトップスピードに切り替えそこに飛び込む。そのチャンスを伺うための余裕も欠かせないと話す。

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「私がラグビーを好きな理由は、仲間同士でお互いの小さなプレーに感謝したり、評価し合えるところ。タックルを受けて倒れてしまった選手の上で、相手の選手と組合いながらジリジリとボールを前に進めるオーバーというプレイなど、目立たないけど、そのプレーがあるからボールが前に運べたという瞬間がたくさんあるんです」。

そんな大好きなラグビーの中でも彼女が特に好きなプレーは、相手に飛び掛かり、倒す、タックル。学生時代はタックルバックという練習用のクッションを自宅近くの電信柱につけて、一人練習していたというから驚きだ。

横尾選手のポジションは、フォワード・フッカー。7人制ラグビーは攻守ともに選手全員が走りまわり、同じように瞬発力・持久力が求められるため、体格的にはどのポジションもあまり差異はないと言われる。しかし、フォワードはスクラムを組んだり相手と接近したコンタクトプレーが多いため、身長が高く体重もある体格の良い選手が絶対的に有利なポジション。彼女が好きなタックルも身体が大きい方がより効果的である。

そのため、ラグビー選手の中では小柄な横尾選手は、身体を大きくする努力を欠かさない。それは、食事による増量・身体づくりだ。

アスリートとして、「増量」と向き合い続ける

日本代表選手の中には、身体を大きくする必要のある「増量組」と、減量の必要な「減量組」がいるそうで、横尾選手は増量組。彼女たちは普段からほかの選手よりも食事を多くとるよう指導されており、合宿中の食事も、同じ食堂の中で増量組メンバーだけほかの選手よりたくさん食べる。しっかり食べて身体を大きくすることも重要なトレーニングの1つとなっているのだが、彼女が抱える食事の悩みを打ち明けてくれた。

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「実は私、お肉が苦手なんです。特に鶏肉があまり食べられなくて…それでも、練習はハードだし、しっかり食べないとどんどん体重が落ちてしまうので、他の増量組の選手たちと頑張って食べています」。

横尾選手にとって、「増量」という目的・課題は中高生の頃から常につきまとってきた。身体が大きな選手が多くいるフォワードを本人がやりたかったこともあり、中高生のころから指導者にも増量をするように言われていた。横尾選手の母親も競技に打ち込み努力する娘を大きくするべく、毎日ボリュームのある食事をしっかり毎食用意してくれていたそうだ。

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「お母さんはすごく苦労していたと思います。たくさんご飯を出してくれるけど、練習がきつくなると、食べるのが嫌になって私が食べない宣言をしたり、お肉を残したり。食べなくちゃ!と思って、朝は気合を入れて大きなおにぎりを6個持って学校に行くんですけど、結局食べきれなくて3個持って帰ってきて、それをお母さんが夕食の時に食べていたり…」。

このように、横尾選手の母親は、根気強く娘の食事トレーニングにつきあってくれた。ある時は、お腹の空く登下校の電車の中で、こっそり食べやすいように一口大の小さなおにぎりを用意してくれたり、またある時は、横尾選手が「たんぱく質が筋力UPに良い」と聞いてきた枝豆を、いつでもどこでも食べやすいように朝二人でさやから出して、ラムネのように筒状のケースに入れ用意したり、「増量」という目標に向けて二人三脚で努力を続けてきたそうだ。

また、横尾選手は肉が苦手なため、ラグビー仲間と焼肉屋へ行っても、ナムルやきゅうりやタンを食べればもう満足。競技をやっていなかったら肉は食べないと思う、というぐらい、あくまでラグビー選手だから食べているような状態なんだそう。

それでも、強くなるために努力して食べてきた。しかし、リオ五輪が終わった後、身体が食事を受け付けなくなってしまった時期があったという。一体何があったのだろうか。

よそれなかった「しゃもじ一杯のごはん」。東京五輪は笑顔で挑みたい

リオ五輪の直前、女子ラグビーが世間でも注目を浴び始め、代表メンバー皆が「メダルを取る」という目標に一丸となって向かっていたが、ハードな練習を続ける毎日で疲弊していたという。

横尾選手も、本来であればきちんと食事をとり、身体を大きくしながらも速く走れる状態を目指すべきだったが、その時は目先の目標にとらわれ、身体が大きくなって走れなくなるより、今、走れることを優先した結果、食事の際に食べるべき「しゃもじ一杯のご飯」をよそらずに、トレーニングにのみ注力してしまったのだ。

心身ともに疲れ果てた状態でのリオ五輪出場。試合の映像を見返しても、みんな顔が引きつっていた。結果は12チーム中10位での敗退。自分たちのラグビーは誇れるものではなかった、と話す。しかし決勝戦でオーストラリアとニュージーランドの選手たちが楽しそうに笑顔でラインアップしてきたとき、「オリンピックって楽しむものなんだな」と、気付かされたという。

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そして、リオ五輪後、減ってしまった体重を元に戻そうと食べていたが、しばらくすると食事が食べられなくなったり、食べても練習前に吐いてしまう状態が続いた。身体を大きくしなきゃ、もっと食べなくちゃ!というプレッシャーに苦しみ、悩んだという。

しかし、横尾選手の悩みは、ある人物との出会いで改善へ向かう。元々ボディビルダーで身体づくりに苦労した経験を持つトレーナーから、様々な食べ方の工夫を教えてもらい、食事が食べられるようになったのだ。

「例えば、炭水化物をこのぐらいの量とらなくちゃいけないっていうのは、今までも栄養士さんから言われてきたけど、全部ご飯でとれなければぶどうジュースで補っていいよ、という続けられそうな代替案を教えてくれました。あとは、食べられなかった時期に食事の量を減らすと罪悪感で自分が嫌になってしまったけど、食前のペパーミントティーが良い、と教えてもらって実践してみたら本当に食べられるようになってきたりしました。今までと違う視点で、結果が出るまでやり続けたいなって思えるアドバイスをしてもらえたので、今では食べることに前向きになれました」。

実際つい先日、人生で初めてパンツがきつくなり、身体が大きくなったことを実感できた、と笑顔を見せた。体重もついに60kgの大台に乗ったといい、順調に増量できているそうだ。

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「トレーナーさんに、その食事を食べたいなと思って食べないと、身体にならないよって言われたんです。確かに食事を楽しんだほうが、量も食べられるようになるし、自分のためにもなっているなって実感します」。

現在の日本代表メンバーには、競技にストイックだった自分たちの世代と比べ、純粋にラグビーを楽しんでいる若い世代の選手も入ってきており、チーム全体でも競技を楽しむ空気が生まれてきているという。横尾選手ら上の世代は、まだ「トライをしたらハイタッチ」というノリにちょっと恥ずかしさがあるようだが、2020年の東京オリンピックは今の前向きな空気のまま、自分たちのラグビーに誇りをもって笑顔で挑みたいと語ってくれた。

PROFILE
横尾 千里

横尾 千里(Chisato Yoko)/ ラグビー選手

1992年東京都生まれ。祖父や弟の影響で、小学1年生の頃からラグビーをはじめる。國學院大學久我山高校、早稲田大学卒業。
2013年に「ラグビーワールドカップセブンズ2013」の7人制ラグビー女子日本代表に選出される。また2015年、日本代表として「ワールドラグビー女子セブンスシリーズ2015-16コアチーム予選大会」で優勝、翌年には2016年はリオ五輪に出場した。
東京フェニックスRC所属。2015年4月、全日本空輸株式会社に入社。

● 好きな食べ物

なす・きゅうり

1分間チャレンジ!

アスリートのための食事のポイント

身体をもっと大きくしたい!

「身体を大きくしたい!」と考えるジュニアスリートは、多いと思います。まずは、必要なエネルギーや栄養素をとるために、①欠食しない、②主食(ごはん、パン、めん類など)、主菜(メインのおかず)、副菜(野菜、きのこ、海そうなどのおかず)を揃えられたバランスよい食事をとることです。食事以外でも睡眠不足にならない、マッサージや入浴など、身体のケアを行うことも大切です。

増量を目指す選手の食事のポイント

1. エネルギー(炭水化物)切れを起こさない

1. エネルギー(炭水化物)切れを起こさない

エネルギー不足になると、身体の材料となるたんぱく質がエネルギー源として使われてしまい、順調に増量できなくなります。毎食、ごはんならお茶碗1~2杯ぐらいは食べるようにしましょう。
3食だけで食べきれない場合は、食事の合間にバナナを食べるなど補食を利用しましょう。
また、練習中はエネルギー不足にならないようにバナナ、スポーツドリンク、エネルギーゼリーを補給しましょう。

2. 毎食、主食(メインのおかず)を食べる

2. 毎食、主食(メインのおかず)を食べる

身体を大きくするためには、身体の材料となるたんぱく質を毎食必ずとりましょう。常にたんぱく質(アミノ酸として体内に吸収される)を体内に確保していることが大切です。
たんぱく質は、肉、魚、卵、大豆製品(納豆、豆腐など)に多く含まれています。肉ばかり食べると、部位(ロース、ばら、皮)によっては、体脂肪がつきやすくなります。魚や大豆製品も積極的にとりましょう。

3. カルシウムをしっかり確保する

3. カルシウムをしっかり確保する

身体を大きくするためには、身体を支える骨を丈夫にすることも大切です。骨の材料となるカルシウムの多い食品は、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、しらす干しやししゃもなどの小魚、ほうれん草や小松菜などの青菜類、納豆、ごまです。小柄な選手は1日1回、大柄な選手は1日2~3回とりましょう。乳製品が苦手、アレルギーの場合は、ほうれん草のごま和えや、納豆にしらす干しやごまを加えてとりましょう。

この食事のポイントを教えてくれた専門家
prof

上村 香久子さん管理栄養士・調理師

給食会社、病院勤務、スポーツ選手サポート関連会社、スポーツ庁委託事業スタッフを経て、2017年からフリーランスとして、柔道全日本強化選手や、中高生の野球、ラグビー、サッカー、バレーボールなどのチームのサポートを行う。