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三者三様の食環境。目指すは「いつでも闘える自分」

フットサル ペスカドーラ町田
原 辰介選手・新倉 康明選手・中井 健介選手 (フットサル選手)

「サッカー」と「フットサル」。2つの競技の違いをご存じだろうか。フットサルは5人制、競技時間は前後半それぞれ20分で、ピッチサイズは40m×20m。これだけ聞くとサッカーをギュッとコンパクトにしたような印象がある。だが、ピッチ面積が狭い分、相手との距離はつまるため、個々の選手の足元の技術はもちろんのこと、パワーにスタミナ、戦術が鍵となるスポーツがフットサルだ。フットサルには6月から1月まで12チームでおこなわれる通称「Fリーグ」という日本トップリーグが存在する。今回お話を伺ったのは、Fリーグの中でも長い歴史を持ち、毎年優勝争いに名を連ねるチーム「ペスカドーラ町田」の3選手。昨シーズンは2位と惜しくも優勝を逃したものの、日本代表に召集される選手も多い、実力のあるチームだ。そんなペスカドーラ町田のなかで、異なるポジションやプレースタイルをもつ3人の選手に話を伺った。

「好き嫌いの多さはスムージーで克服」攻撃と守備の間をつなぐ、原辰介選手

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フットサルのポジション名はポルトガル語で表現される。サッカーで言う所のフォワードをピヴォ、ミッドフィルダーをALA(アラ)、ディフェンダーをFIXO(フィクソ)、ゴールキーパーをGOLEIRO(ゴレイロ)と呼び、各ポジションごとに求められる要素が異なってくる。

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原選手のポジションは「ALA(アラ)/FIXO(フィクソ)」。コートを縦横無尽にがつがつと走りボールを奪い前線へ運ぶ、スタミナが特に必要なポジションだ。スタミナをつけるには食事の内容が重要。だが原選手は子供のころから好き嫌いが激しく、特に野菜が食べられなかったという。

「食べられないもの」があることで食事の栄養バランスが偏り、結果としてプレーに影響が出ることを避けるために原選手がとりいれたのは、以前サポートをしてもらっていた管理栄養士に教えてもらった「スムージーにして野菜を摂る」という方法だった。

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「牛乳、バナナ、はちみつ、しょうがパウダー、ココナッツオイル、生卵とか。季節のフルーツも入れて、スムージーにして朝飲んでいます。寝る前に準備して、朝セットするだけなんで楽ですよ」

これは、自分に必要な栄養素を効率的に摂るためのオリジナルのレシピだという。食材の多さにも驚かされるが、加熱することで失われやすい卵のビタミン類も、生のまま摂りやすいスムージーならしっかりと栄養を摂取できるそうだ。

2017年からは日本代表に召集されるようになった原選手。代表メンバーとして国際大会に参加したが「大会3日目で胃腸炎になっちゃって…」と、滞在中に食事トラブルに見舞われたことを明かしてくれた。幸い試合に影響が出ることなく、全試合に出場し入賞を果たしたというが、いつ、どこでも万全のコンディションで試合に挑むために、普段と環境の違う遠征先で何を食べるか、食事に関して悩んでいるアスリートは多い。

分析と試行錯誤でコンディショニングに励む、全身でボールを阻む、新倉康明選手

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新倉選手のポジションは「FIXO(フィクソ)」と呼ばれ、サッカーでいうディフェンダーに近い。サッカーのディフェンダーはディフェンスラインで守るイメージがあるが、フットサルではスピードとパワー勝負で試合が進行していくなか、身体を張ってボールをとめていく。身体を大きく、強くすることが求められるポジションだ。

新倉選手は栄養を気にかけるようになるまでは、好きなものを好きなように食べていた。「大学のまわりにラーメン屋さんが多くて、週3で食べてました。学食でもギトギトの揚げ物とか。これがすごく美味しいんです(笑)」と油っこい料理も何のその。気ままな食生活を謳歌していたようだ。

だが、そんな食生活ではチームに貢献できないと管理栄養士のサポートを受けた際に気付く。自身の身体は何をどのように食べることで、どんな変化を見せるのか。たとえば、脂質で太りやすいことを認識した新倉選手は、炭水化物の量はそのままに、油を減らすことで調整を試みるといった工夫を凝らしている。「試合で最高のパフォーマンスを出せるかどうか」ということを意識して、食生活の大改革をおこなうことにした。

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「これを食べてその結果がいつ出てくるのか、どのタイミングで良くなるかは経過を追っていかないと分からない。だから、自分が何時間前にどういう食事をしたらいいか。試合前にどう食べればいいのかを常に考えるようになりました」。

油っこい食事を控える。外食するときは緑黄色野菜があるかどうかをチェックする。栄養バランスが整っているかを気にかけると同時に、食べるタイミングにも注目するようになった。食事による影響はすぐに目に見えた形で出てくるわけではない。「だからこそ自分の身体の声にいつも耳を傾けて工夫する必要がある」という。

試行錯誤を繰り返すことで自分の体質が徐々に把握できるようになってきているという新倉選手。チームでも活躍機会が増えているようだ

本番の成果は「準備」のたまもの。俊敏にコートを走り抜ける、中井健介選手

「ALA(アラ)」のポジションを担う中井選手は、素早くコートを駆け回る鋭い動きが持ち味だ。2017~2018シーズンは、リーグ戦全33試合すべてに出場した。その秘訣について、〝準備力“であると話す。

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「特に意識している事は2つあって、1つ目は水分。例えば尿の色に気を付けていて、もちろんビタミンを積極的に取るなどをすれば黄色くなるのですが、それを抜きにした時に黄色すぎたりすると水分が足りていない証拠なので、こまめに水分をとるようにします。夏場は試合前日から特に意識をして水分不足をケアしています。2つ目は、和食中心の食事。外食をするときには和定食を選ぶようにしています。自炊をする時は、手作りの味噌で具沢山の味噌汁を食べます。お米も栄養をプラスできるよう雑穀米を食べたりしますね」。

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練習での準備、試合での準備、私生活での準備など、ジュニアアスリート時代からキャリアを重ねてくる中で、予測やイメージに磨きをかけ、知識を日々アップデートしてきた。実家が農園ということもあって食事と身体づくりについては高い関心をもって競技を続けてきた。大きな怪我も少なく、故障しにくい身体の基礎がつくられているようだ。

展開を読み、一歩先のことを考える頭とそれに瞬時に反応できる身体づくりに取り組みながら、中井選手はもうひとつ先のステップへと踏み出している。それが、実家・中井農園の作物をつかった商品開発を、フットサル選手という立場からおこなうことだ。農園のPRとアスリートとしての競技生活という2つの立場で活動するうちに、「スポーツをやっている人の健康を支えたい」という思いを抱くようになったそうだ。農園の作物の中でもさつまいもと米を活用して、「干しいも」と「甘酒」の商品開発に着手。試行錯誤を繰り返し、完成へとこぎつけた。

「栄養価の高いさつまいもは、干しいもに加工すると食べやすい形状になるので運動直後のエネルギー補給にうってつけ。甘酒はアミノ酸が多く含まれているので、夏バテしたときや食欲のないときに手軽に栄養補給ができます」。

開発した商品は、周りの選手たちからも好評だという。中井選手は、これからもアスリートだからこその視点と発想で、「アスリート」を応援し続けていきたいと語る。

今、感じていること「もっと早くから、食事に意識を向けていたら」

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これまでの経験から、食べたものがパフォーマンスに与える影響をひしひしと感じるようになった3人。インタビューの中で聞こえてきたのは「子どものときから効率良く栄養バランスの整った食事が摂れていたら、もっと早い時期から選手として活躍できたかもしれない」という声だ。

栄養についての関心や基本的な知識は、自分にも家族にもなかったという。多くの親は、自分の子が将来本格的なアスリートになる、と思っていないのではないだろうか。お肉や魚など主菜ばかりが同時に並んだり、ごはんの量だけすごく多かったり、「アスリートとして必要な栄養バランスが整っていたかと聞かれればあやしい」と新倉選手は当時を振り返る。

「ジュニアアスリート時代から栄養バランスについて知識を持っていたら、可能性は広がると思う。もっと食事の重要性をジュニアの選手たちにも知ってもらいたい」と、中井選手。

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競技のパフォーマンス向上、栄養バランスを気遣った日々の食事の工夫、アスリートを応援する商品開発。今までもこれからも工夫を重ね、自分と向き合う手間を惜しまない選手たち。昨シーズン、Fリーグ年間2位だったペスカドーラ町田は、2018シーズン、悲願の優勝を目指して躍進を続ける。

PROFILE
原 辰介

原 辰介(Shinsuke Hara)/ フットサル選手

1994年3月生まれ。法政大学院スポーツ健康学研究科在籍。兄がペスカドーラ町田の前身であるカスカベーウでプレーしていたのを応援するうち、自身もメンバーとしてプレーしたいと思うようになり入団。大学院ではこの学科に限り食堂が無料で利用できたり、機械による食事診断や、ストレスチェック測定などもおこなえ、アスリートへの深い理解が行き届いている。現在は日本代表としても選出される、若手期待の選手。ポジションはALA/FIXO (アラ/フィクソ:攻撃と守備の間をつなぐ役目)。

● 好きな食べ物

湯豆腐

原 辰介

新倉 康明(Yasuaki Niikura)/ フットサル選手

1992年8月生まれ。幼少期からサッカーをはじめ、中学時代に出場したフットサルの大会でチームが関東準優勝を果たす。浪人中はスポーツから離れていたため、筋肉が落ちてやせるという経験も。現在は早稲田大学大学院商学研究科在籍。大学入学後、セレクションを受け入団。ポジションはFIXO (フィクソ:強靭な守備) で、クレバーな判断力と体を張った守備が魅力。

● 好きな食べ物

お米

原 辰介

中井 健介(Kensuke Nakai)/ フットサル選手

1989年7月生まれ。小学4年からサッカーを始め、滝川第二高校、専修大学とサッカー強豪校へ進学。サッカー部の部員としてそれぞれで日本一を経験するも、メンバーには選ばれない苦い経験も。大学卒業後もサッカーを続けていくなかで、誘いを受け、セレクションを受け入団。実家は神戸で農園を営んでいる。さまざまな作物を育てるほか、米やさつまいも等の苗の販売もおこなう。中井選手が開発した甘酒は原選手一家も愛飲中。ポジションはALA(アラ:攻撃的、裏に飛び出てシュートを打つ役割)。

● 好きな食べ物

焼き魚定食

1分間チャレンジ!

アスリートのための食事のポイント

食事の好き嫌いが多い…どうしたら良い?

「苦い、すっぱい、香りが苦手」「見ためがなんとなくイヤ」など、誰にでも苦手な食品はあると思います。食品の好き嫌いは、「ある」より「ない」方がいい。なぜなら、いろいろな食品を食べることができれば、国内外どこでもしっかり栄養補給できるからです。できる限り苦手な食品を少なくできるように挑戦してみましょう。

苦手な食品を克服する方法

1.食わず嫌いにならない。ひとくち かじってみる。

1.食わず嫌いにならない。ひとくち かじってみる。

好き嫌いは、あっていいと思います。最近気になるのが「食わず嫌い」。何となくイヤ、見ためがイヤなど、食べずに頭の中で決めてしまうことです。味覚は、身体の成長や食べる経験を重ねることで変わります。子供の頃苦手だった食品が、大人になって食べられるようになった経験はありませんか。まずはひとくちかじってみて、ダメだったらまた1年、2年と時間を空けてから挑戦することを続けてみてください。

2. 好きな料理に組み合わせる

2. 好きな料理に組み合わせる

好きな食品、料理と一緒に組み合わせることで苦手なものが食べられることがあります。例えば野菜が苦手な場合は、焼肉に野菜を加えて肉野菜炒めにしたり、野菜を細かく刻んでカレーやハンバーグに混ぜて作るなど。また、スパイスなどの香辛料を組み合わせると、苦手な味をやわらげることができます。例えば、キムチ炒めや、カレーソテー、にんにくバター炒めなどです。
ほかにも、ペースト状にすりおろした野菜を、スムージーや蒸しパンなどのスイーツにプラスすると食べやすくなります。

3. 一緒に栽培や料理をして食材に興味を持たせる

3. 一緒に栽培や料理をして食材に興味を持たせる

最近は、「ベランダ菜園」など、自宅で手軽に野菜を育てられるようになりました。子供たちは、野菜や果物、きのこなどがどのように育つのか見る機会が少ないと思います。野菜を育て、採れたての野菜のおいしさを知ると克服できるかも知れません。また、家でカレーやサンドイッチを作ったり、外でバーベキューしたりなど、一緒に料理を楽しく作ることで食材に興味を持ち、ひとくちかじってみようと、挑戦してもらえるかも知れません。

この食事のポイントを教えてくれた専門家
prof

上村 香久子さん管理栄養士・調理師

給食会社、病院勤務、スポーツ選手サポート関連会社、スポーツ庁委託事業スタッフを経て、2017年からフリーランスとして、柔道全日本強化選手や、中高生の野球、ラグビー、サッカー、バレーボールなどのチームのサポートを行う。