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試合当日の「おにぎり」に勝利への祈りを込めて。

日本卓球協会
飯野直美さん (公認スポーツ栄養士)

2018年の卓球の世界選手権女子団体戦では、3大会連続で銀メダルを獲得。石川佳純選手などトップ選手たちが活躍した。1日に何試合も戦う選手たちにとって、試合前・試合の合間のエネルギー補給は非常に重要だ。そんな卓球のトップ選手の国際大会を、工夫を凝らした「おにぎり」で支えたのが、日本卓球協会(以下、卓球協会)でスポーツ医・科学通信委員を務める、公認スポーツ栄養士の飯野直美さん。今回は飯野さんに、卓球選手の食事について、そしてジュニア選手の食事や体づくり・食育に関してお話を伺った。

多くのジュニア層が活躍する競技、卓球の栄養教育

飯野さんは10年以上前から、卓球協会が主催する小学生~中学生のジュニア層向け栄養セミナーを担当している。卓球は競技人口が多いスポーツであるとともに、選手の年齢層も低く、多くのジュニア選手が活躍している競技だ。

「私が担当しているのは、成長期真っ只中の選手たちなので、セミナーではまずは基本的な食事の栄養バランスや食べる量についてお話しすることが多いです。競技者として必要な食事への意識を持ってもらうために、運動量や、競技の特性も踏まえてお話しています」と、飯野さん。

卓球は俊敏なフットワークに加え、1日の試合数が多く、最後の試合が夜になることもあり、体力、持久力も求められる競技だ。運動量に見合う必要なエネルギーをしっかりと食事で補給しながら、脂肪をつけすぎず、成長に合った身体づくりが求められる。また、トップの選手になると強化合宿等の参加や、海外の大会出場も非常に多く、ホテルのバイキングなどの食事環境でもきちんとバランスよく、食事をとる自己管理力が求められるため、低年齢からの栄養教育は欠かせないという。

「小学校低学年~高校生くらいは好き嫌いが多い年代ですが、継続的に栄養のことを学ぶことで徐々に選手本人たちの意識も高まっていきます。競技への意識が高まるにつれて食事と身体づくりがリンクしてくるんでしょうね。低年齢化が進んでいることもありナショナルチームの選手たちも10代後半で、すっかり栄養管理に関して自立している選手が多いなと感じました」と、飯野さんは話す。

試合当日の選手たちを支えたバリエーション豊かなおにぎり

選手のコンディションを食の面からサポートするため、2018年4月から5月にかけてスウェーデンで行われた卓球世界選手権に飯野さんは帯同した。海外遠征時は食べなれない料理や食環境で体重が落ちてしまうといったトラブルを防ぐため、スタッフや選手が炊飯器や具材を持ち込んで、エネルギー補給をすることも多いそうだ。今回の世界選手権の際に選手たちから大好評だったのが、試合当日の補食用「おにぎり」だという。

「一般的なコンビニのおにぎりよりも、1個の大きさを小さくして、試合の合間に少しずつ食べられるようにしました。何日も大会が続くので、その間、選手たちが味に飽きないよう、10数種類のバリエーションを用意し、1回に3~4種類ずつ提供したところ、とても喜んで食べてもらえました」と、飯野さん。自らが握って会場に持ち込んだというおにぎりには、飯野さんから選手への応援メッセージが添えられていた。

実際に現地に持ち込んだおにぎり用の具材の写真を見せてもらうと、梅・わかめ・塩昆布・昆布・とりそぼろ・シャケ・青じそ・かつおでんぶ・ツナマヨ・炊き込みご飯・カレーふりかけ・チャーハンふりかけ・チキンライス・等…選手たちがどれにしようか、楽しく選ぶ姿が目に浮かぶようなラインナップだ。

「特に海外の試合では大会当日、多い選手だと1日7試合くらい、時間も夜20~21時ごろまで試合に出場する可能性があります。試合の開始時間も進行によってまちまちなので、選手が自分のタイミングで食事をとる必要がある。食べ過ぎると動きに影響が出るし、かといって食べそびれていると数日であっという間に体重が何キロも落ちてコンディションを崩す可能性もあるから、注意が必要です」。

選手が食べやすいように、試合でベストを尽くせるようにと工夫した飯野さんのおにぎり。日ごろ食べなれたごはんが精神的にリラックスすることに繋がり、女子団体のメダルを支えたようだ。

一般の小学生にも、スポーツ栄養のノウハウを生かした給食を

そんな飯野さんは、2018年10月まで群馬県安中市内の公立小学校で学校栄養士として勤務していた。毎日、小学生の給食の献立を考え調理業務もこなしながら、時には給食の時間に教室を回り食育の授業を行っていたそうだ。2018年4月の卓球世界選手権のあと、飯野さんのおにぎりが新聞やテレビで話題になると、児童たちから「先生のつくったおにぎりが食べたい!」とリクエストをされて、実際に給食で塩昆布としそのおにぎりを握って出したところ、大好評だったという。

「最近は食が細い子が多く、家庭でもパン食が増えているので、ごはんの日はどうしても残食率が上がってしまいます。ただ世界選手権でのおにぎりを再現し提供するだけではなく、ごはんの力、おにぎりの力として食育も行いました。今回のおにぎりがきっかけでごはん食を見直す良いきっかけになったのではないかと思っています」。

また、運動会の直前には、「運動会応援献立」と称して、エネルギーになるごはんなどの糖質がいつもの給食よりも多い献立を用意。運動会前の食事のポイントとして「生ものは食べない」「消化の良いものを食べる」「よく噛む」など、子供たちにもわかりやすく実践的なアドバイスが添えられていた。実際、運動会応援献立ではごはんの残食率が全学年で減ったそうだ。

ほかにも、持久走大会のあとには、「体のつかれをとる」献立、としてビタミンを強化した献立を用意。校内には「給食からのお知らせ」として、給食中に行った食育の授業のプリントや、様々な食事に関する情報が掲示されており、子供たちが日ごろから食べるものを意識する工夫がたくさん盛り込まれている。

卓球協会の活動で、トップアスリートの食事の様子を知る飯野さんは、そこで見た世界で戦う選手たちも、自分たちと同じように普通の食事を毎日食べていること、好き嫌いや偏食を克服していることなどを学校の児童たちに伝えてきたそうだ。

「あこがれの選手の食事はみんな気になりますよね。でも特別なものを食べているわけではなく、動く分のエネルギーをとって、栄養バランスやタイミングを考えていることを伝えます。それから成長期のみんなは体を作る大切な時期だから、成長する分もしっかり食べること!体は食べ物でできているんだよと意識づけます」と飯野さんは語る。

スポーツが好きで、スポーツをする人を応援したいという強い気持ちで、公認スポーツ栄養士になったという飯野さん。自身は中学生時代に陸上をやっていたが、中学の陸上部の顧問の先生に、大会の時の1日スケジュールを補食のタイミングも含めてノートに書くように言われ、何気なく記録していたという。しかし、今振り返るとその時やっていたことはすごく大切なことだったなと感じるそうだ。

「私も最近になって、ジョギングをはじめたことで、ようやく日々の食事と、日々の運動の関連性を自分自身体感しています。若いうちは気が付かないである程度まで身体を動かせるのかもしれない。それでも、食べたもので身体は作られるし、食べたもので身体は動き、変わるのです。是非、食事に対して子供たちも、親御さんにも関心をもってもらい、そして家族でおいしいものを楽しんで食事をすることも忘れないでもらいたいですね。そういった毎日の食事の経験が、アスリートにとっても、大人になってからも生きてくるはずです」と、飯野さんは話してくれた。

PROFILE
飯野直美

飯野直美(Iino Naomi)/ 公認スポーツ栄養士

日本卓球協会スポーツ医・科学通信委員として、卓球のジュニア選手の栄養指導に当たるほか、世界選手権等の国際大会に帯同し補食の提供も行う。2013年4月~2018年10月まで群馬県安中市立東横野小学校勤務。